立山タンボ平・バックカントリースキー これってギネスかもよ

実施日:2025年5月17~18日
山 域:北アルプス
参加者:石川、中安、渡辺

今シーズンのバックカントリースキーは、立山で締め括りたいと思った。メンバーを募ったところ、御坂山岳会の理事長に就任したばかりの直樹君と我が会が誇る80歳スキーヤー、石川さんが参加に応じてくれた。石川さんが行くんじゃもう、タンボ平を滑るしかない。冥土の土産に石川さんにはぜひともタンボ平を滑っていただきたい。昨年は雪不足で藪が露出しており断念せざるを得なかったが、今年は雪がたっぷりあるので、なんとかなるだろう。本人は高齢なので心配していたが、彼女の実力は熟知しているので心配ご無用。心配なのは直樹君だ。スキーの取り扱いが無頓着なんだ。
直樹君の車で立山黒部アルペンルートの玄関口、扇沢駐車場に着くと、土砂降りの雨。雨具を着用しスキー靴を履いて、いざアルペンルートに突入。電気バスとケーブルカーとロープウェイを乗り継いで室堂ターミナルへ。外は暴風雨だ。暫くターミナル内でそばを食ったり土産物を物色したりして時間を潰すが、一向に雨と風は収まる気配がない。諦めて屋外に飛び出す。風速20メートル以上の突風に苛まれて歩けない。体重のある直樹君と私は、雪に突き刺したストックにしがみ付き暴風雨に耐えるが、体重の軽い石川さんは、まるで木の葉のように雪原を転げまわっている。
視界は30メートルほどで、目印の竹竿を頼りに天狗平山荘目指して滑降する。しかし、風が強すぎて、下りなのに吹き上げられて、逆に登ってしまう。石川さんは転んだきり立ち上がれない。ザックを降ろして空身になってからザックに手を置いて立ち上がるようにアドバイスする。そして、強風の時はじっと耐えて、風が弱まったチャンスを狙って行動するように促す。こんな悪天候の中でバックカントリースキーの奥義を伝授できるとは思わなかった。
ホワイトアウトの中、スキーをしているのは我々の他には誰もいない。1時間とちょっと悪戦苦闘して滑っていると、突然、霧の中から天狗平山荘が現れた。私のルートファインディングは間違ってはいなかったので、ほっとする。
ずぶ濡れ状態で天狗平山荘に転がり込む。小屋の中は別天地だ。着替えもそこそこにビールを飲み始める。豪華な夕餉に熱い風呂に暖かい布団、夜半に窓を覗くと富山平野の夜景が輝いて見える。明日は晴れそうだ。
翌朝、ゴージャスな朝食を満喫し、天狗平山荘のバンで室堂へ。曇天ではあるが風がないので躊躇なく一ノ越を目指す。途中、蛙のような唸り声を上げる雷鳥が、私たちを出迎える。トレースがしっかり付いており、難なく一ノ越に到着すると、青空が見えてきた。シールを外していよいよスキー滑降である。緊張と不安が交差する中でも胸が躍る。これがバックカントリースキーの醍醐味だ。
ここからの私と直樹君のミッションは、いかに安全に80歳スキーヤーを黒部平まで導くかだ。雪質は良く、容易にターンができる。御山谷を慎重に下り、露出した夏道をトラバースして東一ノ越を目指す。スキーをトラーゲンしての岩場歩きは予想以上に難航する。
東一ノ越からダンボ平への下りは、傾斜40度以上の急斜面だ。ちょっと怖い。こういうところは斜滑降で高度を落としていくのが無難だ。私の後をついてくる石川さん、斜滑降がただのトラバースで、なかなか高度が下がらない。私はひと足先に緩傾斜帯まで滑り込む。雪質最高、パラレルターンが体幹に快い。
疲れたのでひと息ついていると背後から「ギャー」という悲鳴が聞こえて来た。振り向くと、石川さんが体をくるくる回転させながら急斜面を滑落していくではないか。どうも彼女は、絶対に転んではいけないところで転ぶ習性があるようだ。そのうち止まるだろうと思いながら、滑落して来る方向に移動して受け止め態勢をとる。幸い私よりずっと上で滑落は停止した。殿の直樹君が救助に向かい事なきを得た。しかし、残念なのは、この状況を動画に収められなかったことだ。撮影していれば、新年会の上映でさぞ盛り上がったことだろう。
タンボ平は藪がほぼ雪に埋まっており、我々に快適な斜面を提供してくれた。上空にはロープウェイが架かり、そこから乗客が手を振っている。スキーをする我々はちょっとした優越感をお覚える。ただ、雪解けで雪面に筋が入り、それを跨ぐとスキーがガタガタと跳ねて、ターンのきっかけを逃してしまう。石川さん、まさに七転び八起きで喧噪の黒部平ケーブル駅に到着する。でも無事でよかった。ロープウェイを使わなかったので帰りの交通費は行きの半額なのが嬉しい。額から流れる汗が目に入って痛い。
ところで、立山のタンボ平、この上級者コースを80歳の老人が滑ったのは未だかつて聞いたことがない。申請すれば、ひょっとしてギネスブックに登載されるのではないだろうか。
(中安)

 

一年に一度しか出来ないこの頃、一度は滑りたいと思った立山。念願かない、これで約30年の山スキー終活できます。ありがとうございました。
 (石川)


 

2025年05月17日