ホワイトアウトで横滑り~根子岳バックカントリースキー

実施日:2022年3月6日(日)

山 域:長野県菅平、根子岳

参加者:中安正議(単独)

行 程:5:20甲府→8:20菅平・奥ダボススノーパーク駐車場→8:55第1リフト終点ゲレンデトップ→9:52避難小屋→11:25根子岳山頂12:00→12:40避難小屋→12:48ゲレンデトップ→13:08駐車場→遊楽里館(入浴)→19:15甲府

三月二日の蓼科山登山から中二日で根子岳へ登ろうと思ったが、堆甲板ヘルニアが悪化して右足がしびれて動かない。もう一日様子を見て、中三日で根子岳へバックカントリースキーに行くことにする。痛み止めの薬を飲めば大丈夫だ。甲府の自宅を出てから佐久あたりまでは天気は良かったのだが、徐々に空模様が怪しくなり、長野県菅平の奥ダボススノーパークに着く頃には本格的な雪となっていた。
リフトを一本乗るとそこはゲレンデトップ、根子岳へ続く緩やかな尾根が眼前に展開しているが、根子岳は鼠色の雲が掛かっていて見えない。悪天候のためスノーキャット(雪上車)は運休している。
ここからスキーにシールを貼って登る。私の前方には二人の登山者、後方には七人のバックカントリースキーのパーティーがいた。視界は五十メートルほどで風も強い。手袋をした手がかじかむ。右手霧の向こうに避難小屋をなんとか確認し登り続ける。ガスで視界の効かない尾根は駄々広く、登山ルートがよく分からない。二十メートル間隔で立てられた竹竿や標識を頼りに登る。「ここが頂上ですか?」と、私が訊くと、「もうちょっと先ですけど、頂上行っても風が強いだけなので、ここで下ります」と、答えた。
しかし、私は頂上を目指した。そこから先はシュプールも足跡もない新雪だ。一人でラッセルしてピークに立ってほっとすると、ガスに霞んでいるが標識が見えた。標識は山頂の方向を指していた。根子岳山頂はまだ先だった。山頂には、雪に埋まっていると思っていた祠がちゃんとあった。
風と寒さで早々に山頂を引き上げる。風を避けるためシールを付けたまま樹林帯まで下る。シールを外して滑降態勢を整えると、いつの間にか濃い霧に閉じ込められて登って来た方向が分からない。ホワイトアウトだ。写真なんか撮っていなければよかった。慎重に竹竿や標識を探しながら下る。この広く平坦な尾根は、すぐに支尾根へ迷い込む危険を孕んでいる。入笠山、蓼科山に引き続き、続けて三回も下降ルートを間違えたのでは洒落にならない。
足元も霞むほど濃いガスに巻かれて、方向どころか平衡感覚をも失う。滑っているのか止まっているのかも分からず、本当は止まっているのに滑っていると錯覚して何回も転ぶ。標識の竹竿を発見しても、次の竹竿がガスで見えない。慎重に横滑りで次の竹竿を探す。次の竹竿が視界に入ると、さらに横滑りで竹竿を視界から逃さないようにして下る。下手にターンをすれば竹竿を見失ってしまうので危険だ。
山頂から二百メートルほど標高が下がったところでガスが切れて視界が確保できるようになってきた。周囲の樹木が見えることによって平衡感覚を取り戻す。山頂からはずっと私一人しかいない。あてにしていた後続パーティーは途中で引き返したようだ。
視界が開けたので、あとはスキー場を眼下に望み、ターンを繰り返して新雪の感触を楽しむ。なだらかな尾根を直滑降でゲレンデトップに辿り着く。
スキー場の真ん中に白樺の大木があり、その下でランチタイムとする。今回はホワイトアウトの恐怖感から全く飲食を摂る余裕がなかった。一般スキーヤーの滑りを見ながら、大好きないなりずしと暖かいコーヒーで至福の時を得る。気になる腰の痛みは、帰りに熱い温泉に入れば治るので大丈夫だ。
ホワイトアウトのため、期待した滑りはできなかったが、根子岳頂上を踏んだという充実感は、それはそれなりにあった。

2022年03月06日