成城尾根で表層雪崩発生天狗原バックカントリースキー
実施日:2022年3月19日(土)
山 域:北アルプス白馬岳天狗原
参加者:中安正議、渡辺直樹
行 程:8:10おびなたの湯→9:15京都府大山小屋(白馬村落倉)→9:30栂池スキー場第2駐車場→9:50栂池ゴンドラリフト乗車→栂池ロープウェイ乗車→10:45栂池自然園駅→成城尾根→12:15天狗原→13:34成城大小屋→15:20京都府大山小屋
白馬山麓滞在四日目、今日は八方尾根の押出沢をスキーで滑る予定だった。今朝富士吉田を出発した直樹君と、おびなたの湯で待ち合せた。ここに私の車を置いて、直樹君の車で八方尾根駐車場へ向かうつもりだったが、天気は雨。二股から八方尾根方面を覗くと低く灰色の雲が垂れ込めている。尾根はおそらく雪だろう。アイスバーンの上に湿った新雪、おまけに雨。こんな時に押出沢へ入れば雪崩の餌食になるだけだ。押出沢はあっさりと諦めて、今日はゲレンデスキーをしようということになった。
八方尾根スキー場はリフトに乗らなければならないので濡れてしまう。栂池高原スキー場ならゴンドラとロープウェイに乗れば濡れないで済む。という訳で私たちは栂池高原スキー場へ向かった。
スキー場の中央駐車場は雨なのに満車で、第二駐車場に車を止める。そこからシャトルバスでゴンドラ乗り場まで行ったが、ゴンドラも混んでいて長蛇の列だ。ゴンドラに乗るが、濃い霧に包まれて景色は見えない。しかし、ロープウェイを乗り継いで栂池自然園に着くと、雨雲の上に出たらしく、晴れた。
「直樹君、晴れたのでやっぱ天狗原へ登ろう!」 と、気まぐれな私の気が変わった。
栂池自然園から天狗原へ至る成城尾根の東斜面はまず雪崩の心配はない。天候さえ良ければ楽勝だ。今日は風もない。楽しい登山になりそうだ。
私は完璧なバックカントリースキー装備だが、直樹君はゲレンデ用のスキーと靴なのでスキーを担いで登らねばならない。膝まで雪に沈んで苦戦している。私よりはるかに体力のある直樹君なのに、スキー登行の私からどんどん遅れていく。天狗原山頂には、私より十五分ほど遅れて到着する。汗だくだ。
「よくツボ足で登って来たね」と私が言うと、「途中で帰ろうかと思いました」と、直樹君は顔をしかめて言った。直樹君、次回はバックカントリースキー履いて来ようね。
天狗原で休憩後、さあ、いよいよお待ちかねのスキー滑降タイムだ。しかし、湿った重い新雪は思いのほか滑り難く、二人ともターンに失敗して転びまくる。結局、斜滑降、キックターンを連発する。
中腹まで下りて来た時だった。成城尾根付近の雪面が不自然にデコボコしている。近付いてみると、表層雪崩のデブリだ。一昨日のアイスバーンの上に三十センチメートルほど積もった新雪が滑り落ちたのだ。雪崩た雪面が光っている。傾斜は二十五度くらいの緩斜面だ。登っていた時には無かったので、発生直後だろう。長年天狗原に登っているが、ここで雪崩たのを見るのは初めてだ。今居るところも雪崩の危険があることに気付き、慌てて成城大小屋まで下る。
成城小屋から林道へ降りると、再び周囲は濃い霧に包まれた。林道のヘアピンカーブは林間をショートカットできるのだが、視界が効かないので林道を忠実に滑る。林道に圧雪車は入っておらず、薄いシュプールを頼りに下る。栂池高原スキー場のゲレンデに出ても霧が濃く、ゲレンデ内でも道に迷う。
下山途中、私の携帯に大町警察署から電話があった。コンパスアプリで登山計画書を提出していたので、それを見たのだろう。「白馬乗鞍岳で雪崩に巻き込まれた人を目撃したという、登山者からの通報があったのですが、今どちらにいらっしゃいますか?」「は? もうすぐ下山しますけど」どうも、雪崩に巻き込まれた登山者の身元確認をしているらしい。すると待てよ、我々は被疑者ではないか。遭難した登山者は足を骨折していたが、翌日、ヘリコプターに無事収容された。奇しくも私と同い年の六十二歳であった。さて、私は体力を使い果たしていたので鐘の鳴る丘ゲレンデからベースの京都府大山小屋へ直行したが、直樹君はリフト一日券を購入していたので、夕方まで滑ってから小屋へ帰ると言う。なんとも元気な若者だ。その日、小屋では、糸魚川で買ってきたベニズワイガニと金丸装備部長から貰った鹿肉のビーフシチューで豪華な晩餐となった。二人でベニズワイガニ五匹はちょっと多かった。直樹君は足、私は甲羅の蟹味噌専門という分業制でたいらげた。
翌朝、若者は、今日の十時から実家で法事があると言って、朝の五時半に小屋を出て行った。