風雨の御嶽山
実施日:2022年8月16~17日
山 域:御嶽山
参加者:石川敬子
噴火後の復興も進み、時期によっては剣ヶ峰まで登頂可能と聞いてから、山頂付近はどうなっているのか気になり、行きたいと思っていたが、天気予報は雨ばっかり……。天気予報とずーっとニラメッコしていて唯一8月16日が雨マーク無し、前後はまた雨マークが続く。
「よし、16日に行こう。幸い予定は無い、多少の雨は良し、として」
往復日帰りも良いけど、朝早く出て、夜遅く帰宅もカッタルイな、と思い一泊とし、五ノ池小屋を予約。登山口はたくさんあるが、会で行った「鹿ノ瀬」からが一周するには便利かな?と。
予定コース=ロープウエイ飯森高原駅~八合目女人堂~覚明堂~剣ヶ峰~二ノ池~五ノ池(泊)~三ノ池道~八合目女人堂~高原駅。
16日朝4時半、家を出る。ナビに従い長野道塩尻から国道19号に入り、南下。 鹿ノ瀬駐車場9時着。駐車しているのは10台くらい。なんか、閑散としてる感じ。天気悪いから? 平日だから? だろうか。
乗り場前のお花畑から見える御嶽山はガスに覆われている。飯森高原駅9時半、登山道入口9時50分。木片チップの道が気持ち良い。膝に負担がかからないよう、ゆっくり上がって行く。
時々薄日も差し、今日一日天気が持ってくれると良いな、と願う。が、しかし、八合目手前から雨が降り出す。女人堂までは傘で対応。実が赤くなり始めたゴゼンタチバナが、秋への誘い。
女人堂11時、ここから上は木々が無くなるので合羽上下を着る。そばにいた登山者と「今日だけは雨マークが無かったんだけど、やっぱり駄目だね~」と話をする。 少し上で軽く食事をしていると、前後して登山者が登ってきた。上がるに従い風が強くなり、雨も本降りに近くなってきた。
途中で会ったご夫婦は、これじゃ展望も無いし引き返す、と言っていた。私もちょっと、どうしようか? と迷ったが、とにかく剣ヶ峰まで行って、それから考えようと決める。しかし、次第に雨風共にかなり強くなってきた。
石室山荘の建物が上に見えたので、多分閉まっていると思ったが、小屋陰でちょっと休もう、と上がって行く。途中にはまだ黒焦げの木が、噴火を思い出させるように残っていた。
山荘の入口の札を見ると、中を通り抜けて登山道へ行ける、と書いてある。扉を開けると小屋の人が出てきたので少し話をする。休みたかったが、休んでしまうと外へ出る気が無くなってしまう、と思い「申し訳ありません、休みたいんですけど、この天気で早く先に行きたいので、通り抜けさせてください。」と断って外へ。小屋の方は、気持ち良く「どうぞ」と言ってくれた。次に来た時は中で休んで行こう、と思った。
外に出ると相変わらずだが、すぐ先に九合目の文字が目に入る。12時46分、お、もう少しだ! 覚明堂までは岩陰になっているので、いくらか風が弱い。だが、ここを抜けると、まともに風雨にさらされる。周囲はガスで覆われ展望も無い。とにかく剣ヶ峰まで行こう。
黒沢十字路で剣ヶ峰までの方向指導標と地図をにらみ、道を確認しながら風に逆らって上がって行く。顔を上げると雨粒が顔に当たり、まともに上げられない。上から一人降りてきたのでルートを確信する。二ノ池との分岐13時、ここから先は、足元のごろ石に膝を捻ったりしないよう慎重に進む。奥社への階段手前にはシェルターが3棟設置されて、慰霊碑が設けられている。
銘文を読みながら、(楽しく登山し、昼食など取って寛いでいたところに、突然の災害、どんなに怖かったろう。熱かったろう)と、その惨事を想像し、自分だったら、と思うと涙が溢れた。思わず周りを見、耳を澄まし、足元の地面の変化を暫く観察することだった。
剣ヶ峰・奥社に13時半。目の前の建物もたくさんの立像も、ガスの中に溶け込みそう、勿論周囲も真っ白! この剣ヶ峰は噴火口から500メートルしか離れていない。たとえこの瞬間噴煙が上がったとしても分からないだろうな、と思うと怖くなった。下りはこのまま下るか、五ノ池まで行くか、思案しながら途中の分岐まで降りる。登山道の所々で白くなっているのは火山灰の残りか? 少し風も弱まり、二ノ池方面に足跡を見たので、やっぱり五ノ池まで行くことにする。地図上では約1時間半の行程だし、ほとんど下りだし、と。早ければ15時半、遅くても16時には着けるかな~。
ところが、この後吹きさらしの稜線は下りだがまともに正面からの風雨を受けるようになり、おまけに突風に体を持って行かれそうになり思わずしゃがみ込む。その後はストック頼りに前かがみ状態でまともに顔も上げられず、時々立ち止まってルートを確認する。サイノ河原辺りは道が分散されていて分かりにくく、少しうろうろ。
避難小屋で少し休むが、出るのを躊躇するような外の天気に「やれやれ、とんだ天気。こんなはずじゃなかったのに……」でも、ここまで来ればもう行くしかないな~
三ノ池経由で行くつもりだったが、分岐には「雨天時は落石等の危険があるので注意!」の看板あり。「あちゃー、どうしよう……? 一人だから、もし何かあったら」と思い乗越経由にする。摩利支天乗越まで登り、あとは下るだけだと思ったが、この稜線もまたとてつもなく風雨まともに受ける。下から吹き上げる風雨にいい加減嫌になり、一瞬弱気になった。
「低体温症により死亡」なんて言葉が一瞬頭をよぎり、ここで死ぬわけには行かないもんね、と。幸い合羽も靴もまだ新しく、衣類も足も全然濡れてないので心配は無かったが、もし全身ずぶぬれ状態だったら、なりかねないな……? と思った。
昔、白馬の稜線で同じような状況だったことを思いだす、あの時は8人だったが、全員風雨の中で低体温症寸前になり、後10分遅かったら危なかった。皆頑張ったな~! なーんてことを思いながら。
そろそろ小屋が見えても良いんだけど・・・・・・。
15時43分、石に書かれた五ノ池小屋の文字がおぼろげに見えて、やっと着いた~! と、一瞬ガスが切れて目の前に小屋が見え安堵した。小屋はリニューアルしてまだ新しく、先着2名の男性がいた。彼等は中の湯から上がってきたとのこと、途中からほとんど同じルートだ。今日の宿泊は私とこの2名のみ。まーこの天気ではね~。
荷物を整理して落ち着いたら、やっぱり「生ビール!」喉が渇いたよ。夕飯時にグラス赤ワインを一杯。屋根や建物に当たる強い雨音にうんざりしながら外を眺める、明日は雨予報なので雨に降られるのは覚悟しているが、風は弱まって欲しいと願いながら眠りについた。
17日、外は一面ガスに覆われ、真っ白、展望無し。風は気持ち、弱まった感じがするけど。
今日は三ノ池道経由で直接女人堂に戻る予定だったが、この道はほとんど谷間を通るし、途中沢を横切らねばならない。会のフミヨさんの百名山達成記念登山で通ったルートだ。小屋の人も一人ではちょっと危ないかも? と言うし、自分も渡渉やがけ崩れなどの心配があったので、このルートは中止にしておとなしく来た道を戻ることにした。男性二人組も往路を戻ると言う。
昨日見送った乗越手前の分岐からのルートを聞いたら、そんなに危険な所は無かった、と言うので、今日は三ノ池をぐるりと回って二ノ池に向かうことにする。
6時55分、相変わらず真っ白なガスの中、ルートを確かめて三ノ池へ。風下になっているので思ったより風の影響は受けず、雨は降り続いているが少し展望も効いて、気持ち良く歩けた。昨日の分岐に出ると、やはり風が強いが、昨日ほどでは無いように思えた。
二ノ池ヒュッテと本館辺りで、「なんだか昨日通った道をなぞってる?」そのうち指導標に「濁河」の文字が、え~? ここでこの文字が出るはず無いよ? とにかくわかる地点まで行って見よう。すると三ノ池への文字!
「え? どこで間違えたかな~」戻ってるよ? やっぱり昨日通った道だと思ったんだよね~。サイノ河原には綿毛のチングルマが雨に濡れながら風に揺れていた。昨日は気に留める余裕も無かったけど。改めて二ノ池方向へ、するとすぐに二ノ池本館が見えた。「やれやれ」
本館の脇を通り、まだ火山灰で覆われて濁っている二ノ池を見ながら進む。覚明堂の岩陰に入ると風も弱まり、谷を埋める雲海が綺麗だ。ガスも少しづつ切れて眼下の展望が利くようになり、緑の山襞の向こうに王滝登山口らしい建物が見えた。一番被害の大きかったルートだ。緑の森を見下ろしながら順調に下る。女人堂10時半。やっとここまで来ました、あとは樹林の中を下るだけ。
この天気、登ってくる人もいないだろうな、と思ったが結構登ってくる人達とすれ違う。
時々薄日も差すようになるが、振り返ると山はまだガスの中だ。5、6人の登山者の中に86歳だと言うおばあちゃんがいて、仲間のサポート受けながら登っているとのこと。とても元気で「私も頑張りますね!」とエールを送る。
飯森駅までの間は雨も降ったり止んだりで、合羽を着たままでロープウエイに乗り込む。車に戻り着替えをして、お風呂を探すも、帰りの高速など帰路も時間かかるので、そのまま帰宅。家でゆっくりお風呂に入り、風呂上りビールで「おつかれさん!!」
天気悪かったが剣ヶ峰まで行けて満足。天気の良い時に再訪したいと思う。
後で分かったが、この鹿ノ瀬からの御嶽ロープウエイは、今年11月で営業終了とのこと。コロナで客足が遠のいたことに加え、施設の老朽化もあり、資金不足に陥って運営が難しくなったらしい。
(石川敬子)