荒川北沢〜白根縦走〜大門沢

実施日:2024年8月11日(日)〜13日(火)
山 域:南アルプス
参加者:高柳達志(L)、金丸祐司(L)他2名(S, K)
行 程:[1日目]5:30奈良田駐車場→(バス)→6:00野呂川発電所バス停→7:00弘法小屋尾根取り付き→8:00北沢取水施設→15:20 Co.2100テンバ[2日目] 6:00 テンバ発→6:45八本歯沢出合→8:00北岳山荘ポンプ施設水場→9:15北岳山荘(稜線)→10:40北岳山頂→12:10北岳山荘→12:50中白根山→14:20間ノ岳→15:30農鳥小屋(金丸Pは北岳山頂ー白根御池ー広河原で下山)[3日目]5:30 テンバ発→7:45農鳥岳→9:00大門沢下降点→11:45大門沢小屋12:40→15:35南アルプス林道→16:30奈良田駐車場

 

沢を繋いで高山を乗越す。夕暮れの谷で焚き火と語らう穏やかな宴会。学生時代に北海道の日高で覚えた沢旅を、南アルプスでやりたいと思っていた。赴任して3年目、山梨で沢に行く仲間ができた。当初、3回乗越す4泊の長大な山行を構想したが、調整のすえ、2泊3日うち沢1泊の行程に落ち着いた。
1日目。2:30に迎えにきてくれたSの車に乗り込んで奈良田へ向かう。駐車場で前泊している金丸Pによればすでに路駐が始まっているから、駐車できるか心配だ。というのも、僕が高校時代の部活の同期らと飲むために前泊できなかったのだ。上野で10年来の再会に強かに飲んだあと、広小路の雑踏の中を急いで列車に乗り込んだ。翌日の沢での宴会を想像すると愉快なことこの上ない、準備は万端にしてきた。かいじ号が甲府に着いたのは23:37。睡眠時間は1時間と少し、学生以来の強行軍だ。車を出してくれたSに感謝。
路駐スペースはすぐに見つかった。準備をしながらバスを待つ。バスは5台体制で、それでも立ち客があった。野呂川発電所バス停で降りたのは、私たちと他に1パーティ(2人)だった。しばらく林道を歩き、Co.1250で入渓。堰堤は左側のロープを手がかりに通過した。弘法小屋尾根取り付きの手前で出会った釣り人によれば、北沢は釣れないという。しかし釣り人の言うことだ、不安になることはない。
暑さと重荷に喘ぎながら弘法小屋尾根を登った。2泊以上の山行は初めてだというSはすでにつらそうだ。Co.1500付近で北へトラバースして取水施設に至る。この道は取水施設管理のための道なのだろう、手すりや階段が整備されていた。
取水施設の上に来ると北沢の水量は一気に増えた。早速釣りを開始する。毛鉤をほんの試しのつもりで流したら早速釣れる。あとでいくらでも釣れるだろうとリリース。今回テンカラ初挑戦のSに手ほどきすることを優先する。なに、あとでウブな岩魚が入れ食いだろう。
金丸Pの二人はエサ釣りで丁寧に釣り上がっていく。二人で6匹の釣果。25cm程度の食べ応えのありそうな岩魚である。私の毛鉤には近寄ってくるが食わない。スレているのか?Co.1600ほどまで釣り上がったが、結局テンカラは釣果ゼロだった。K曰く、胃内容物から大きなフキバッタが出てきたというから、もっと大きな陸上昆虫を模した毛鉤を使うべきだったのかもしれない。


Co.1700辺りはゴルジュ状になる(写真1)。Co.1800から沢は開け、明るくなった。石灰岩、チャート、泥岩の巨礫が頻繁に小滝を作っているが、水際を巻いたり登ったりしてロープを出すことはなかった。しかし岩がヌメヌメで、足元には神経を要した。
Co.1900に平らなテンバ適地があったがCo.2100まで上げることにした。Co.2100左岸でテンバを探すが、なかなか平らな場所がない。結局、緩く傾斜しているが、刈り払いが最低限で済む場所にタープを張った。連結巨大タープを張ってみれば十分快適だ(写真2)。いそいそと火を起こし、炊事に取り掛かった。カラカラの薪に火はすぐついた。日本酒5合、ビール2L、ミョウガ・大葉&オクラを混ぜ込んだ冷やしうどん、トマト、白米、牛肉、そして岩魚。マシュマロもある。さぁ宴会だ。
夕暮れ、夜叉神峠越しに御坂山地の東側が見える。沢を吹き抜ける風が煙を運んでいく。満腹の腹に骨酒を注ぐ。日没、夏の大三角形、天の川。焚き火を眺めながら吶々と話し、物思いにふける。金丸さんは焚き火脇で寝音を立てている。僕らが寝たのは20:00をすぎたごろだっただろうか。


(写真2)北沢のテンバ
2日目。お茶とパスタを食べて出発。傾斜のあるゴーロをグイグイ登っていく。Co.2200の滝は右岸のバンドを通過した。八本歯沢出合で沢は開けるが、平地はなかった。出合で左に行き、二本程度沢が分かれ全て左に行くと源頭に至った。マルバタケブキの咲くノガリヤス草地にベニヒカゲとクモマベニヒカゲが舞っている。北岳小屋の取水ポンプがある細流付近で休止、水を汲んで、しばし沢風に汗を乾かす。
旧北岳小屋の石積み跡を通り、踏み跡を辿って稜線へ上がる。水場への降り口付近にザックをデポして身軽になったSと私は散歩気分だ。金丸さんは体調がすぐれないようで、動きが遅くなっている。ゆっくりと山頂を目指した。途中、登山道上に足輪をつけたライチョウの群れが悠々と現れた。晴れた日にここまで近づけたのは初めてのことだ。
山頂はそんなに混んでいない。しばらく休み、記念撮影をして、広河原へ下山する金丸Pと別れた。北岳山頂付近で、南アルプス固有種のタカネツトガを撮影できたことが密かに嬉しい。
残りの行程は2年前に歩いた縦走ルートだから気楽だ。ザックを背負うとまだまだ重いが、ただ足を動かしていれば間ノ岳へと至る。間ノ岳でガスが出てきた。Sの体力を気遣いながら歩く。話し相手のいる高山歩きは楽しいものだ。ハイマツの実を食べているホシガラスをよく見た。ガスが流れるなか、起伏のある広い尾根に巨岩が点在する氷河地形を歩いていると、どこか別の惑星に来たかのような気がする。
濃いガスで距離感覚が覚束ない間に農鳥小屋へと到着した。時折パラついたものの、結局雨がまとまって降ることなく、テンバを設営し、炊事。いつもの雑炊とおかず数品。19:00ごろには寝ただろう。
3日目。お茶とパスタを食べて出発。今日はSに前を行ってもらう。西農鳥へ着実に登っていく。道が南側へ回り込むと、塩見岳、荒川三山、赤石岳、太平洋へと連なる赤石山脈を一望にして、歓声を上げる。朝日が刻む山肌の陰影が美しい(写真3)。


(写真3)農鳥岳へ向かう縦走路
農鳥岳で休んだあと、下山を始める。大門沢下降点で高山植生と別れ、長い降りに取り掛かった。ザレた急な道である。Sは重荷に膝が痛くなってくる。シラベとトウヒの針葉樹林が濃くなると、大門沢小屋はもうすぐだ。
小屋につくと、驟雨。小屋のテント下で軽食をとり、しばらく様子をみるがすぐには止まない。雨具の装備を固めて降り始める。沢沿いのルートから樹林内へ入れば、広葉樹の樹冠に遮られた雨滴は優しい。雨具を解いて歩き続ける。雨でドロドロになった道はよく滑る。僕が一度盛大に滑って泥だらけになった。
いつの間にかに雨は止んでいた。取水施設の吊り橋を渡るとゴールは近い。林道を歩き、南アルプス林道へと至った。なかなか奈良田へと着かない道歩きに辟易しながらも、トボトボ歩いて車まで、ゴール。
一目散に奈良田温泉へ、3日分の汚れを流す。無事山行を終えられたことに安堵。焼肉で翌日からの仕事の英気を養って、帰路についた。
(高柳達志)

2024年08月11日