5月・月例山行 立山バックカントリースキー
実施日:2024年5月18~19日
山 域:北アルプス
参加者:中安正議、青木信子
行 程:[5月18日]5:30富士河口湖町→6:40甲府→9:25扇沢駐車場→11:40室堂→14:00室堂山国見岳コル→14:50天狗平山荘(泊)[5月19日]天狗平山荘7:30→7:43室堂→9:30一ノ越10:40→11:20室堂→12:50黒四ダム→14:00扇沢駐車場→20:00甲府
国内の生産活動を中心となって支える人口のことを生産年齢人口という。その年齢は15~64歳と定義されている。私は今年65歳。労働力の中核として経済に活力を生み出す人々の指定席から退場させられたということだ。もはや私は、老年人口と呼ばれる指定席に移動を余儀なくされたのだ。
それでも私は、週5日間フルタイムで働き、若者たちに負けてなるものかと歯を食いしばって頑張っている。なのに周りの人々からは「中安さん、暇そうですね」とよく言われる。なぜだろうか。
それはさておき、年々体力が落ちていくことは否めない。そう遠くない日に、山に登れなくなるような気がする。それまでに、登りたい山には登っておきたい。「山は逃げない」と巷では言われるが、「山は逃げる」のである。登れるときに登らないと、山は逃げて行くのだ。
どうしても登りたい山は幾つもあるが、そのうちのひとつが立山だ。二十歳の頃から毎年のように通っていたが、ここ十年ほどご無沙汰である。私の青春の思い出が散らばっている山だ。どうしても行きたかった。
月例山行として御坂山岳会会員に呼びかけたところ、一人ひっかかった。青木さんだ。バックカントリースキーは一人ではつまらない。自分の滑っているところが撮れないからだ。今回は二人なので大撮影大会が敢行できる。楽しみだ。
大町からアルペンルートを利用して室堂へ向かう。片道6,540円。高い! でも、立山は登らなくてはならない山だ。仕方がない。
ロープウェイから眼下のタンボ平を窺う。雪が少なくブッシュが露出している。これではスキーではなくただの藪漕ぎだ。明日、ここを滑るかどうしようか迷う。
アルペンルートでスキーを携行しているのは我々二人だけだった。あとは観光客、外人ばかりなので海外登山に来たようだ。観光客はケースに包まれた我々のスキーに興味津々だ。
室堂には十分過ぎるほど雪がある。どこを登るかよりどりみどりだが、室堂山へ登ることにする。青木さん、さすが女性らしく上下とも鮮やかなピンクのスキーウェアだ。雪山に映える。これから彼女のことをパー子と呼ぼう。
喧噪の室堂ターミナルからいきなり静寂の雪原を、シールを効かせて登る。快適である。雪は程よく締まっており、快晴の青空の下に光り輝く雪が美しい。
室堂山と国見岳の間のコルから滑降を開始する。とても気持ちが良い。ターンするたびに体が浮き上がる感じだ。ハイマツ帯に入ってからは限りなき斜滑降。下り過ぎると天狗平まで滑れなくなるので注意が必要だ。
天狗平山荘に着くと、小屋のオーナー佐伯賢輔氏が迎えてくれる。彼とは45年来の友人だ。暫く見ないうちにすっかりお爺になっていた。待てよ、彼と私は同い年だっけ……。
着いていきなり大ジョッキの生ビールを飲み干し、すっかり酔ってしまった。その後、ロング缶2本を立て続けに飲んだ青木さんには敬服する。
夕食後、夕陽を見に小屋の外に出る。日本海を望む富山平野に紅の太陽が沈んでいく。まさに、奇跡の黄昏である。高い交通費を払って来た甲斐があった。三十分ほどの大自然の演出に感銘する。
翌朝、超豪華な朝食後、小屋の車で室堂まで送ってもらう。空は高曇りだ。今日は取り敢えず一ノ越まで登って雪の状態を見てから、タンボ平に滑るかどうか決めることにする。まだ、タンボ平には未練がある。タンボ平を滑れば、トロリーバスとロープウェイの交通費3,900円が浮くからだ。
一ノ越への登りは、パー子、いや、青木さんがどんどん先に行ってしまう。お爺はマイペースで登って行く。一ノ越直下で雪がなくなり、スキーを担いで登る。一ノ越から雄山への道には雪が全くない。でも、岩だらけの道をスキー靴で登る気もしない。
一ノ越から東一ノ越を観察する。雪は少なく夏道が露出している。この道を1時間半、スキーを担いで歩くのはいやだ。それよりも途中の雪渓が難所のようだ。東一ノ越へ向かった二人パーティー、滑りを見るとかなりの上級者のようだ。しかし、雪渓のトラバースで動きが止まっている。難航しているようだ。アイゼンを持って来ていない我々には無理のようだ。
やはり、タンボ平を滑るのはやめて、室堂に戻ることにする。命あっての物種だ。3,900円がなんだ。一回飲みに行くのを我慢すれば済むことではないか。
室堂へ向かう斜面で雷鳥に遭遇する。雷鳥が進行方向の横断を終えるまで暫し休憩。雷鳥の生息域を撹乱しては申し訳ない。そしてまたパラレルターンの繰り返し。楽しいことこの上なし。室堂の手前斜面は傾斜が緩く、ルートファインディングが難しい。ガスっていれば雷鳥沢に迷い込みかねない。
室堂に着いてから、スキーを脱いで遊歩道をミクリガ池まで散策する。池は完全に雪に覆われていて、ぜんぜん池じゃなかった。
アルペンルートのロープウェイを下車した黒部平で、一ノ越からタンボ平へ向かった二人組に再会する。彼らに状況を訊くと、
「何とか滑って来たけど藪漕ぎでした。行かない方がよかったですよ」と答えた。やはり、タンボ平はもっと雪のある時期に滑ることにする。来年リベンジだ。そう思うと胸がわくわくしてきた。
黒四ダムでちょっと昼寝をして、扇沢の駐車場に戻る。周辺はすっかり初夏の様相だ。長野のラーメンチェーン、テンホウの大町店で野菜炒めとラーメンと餃子をたらふく喰う。体も心も満腹だ。ただの山登りとはちょっと違う、バックカントリースキーのこの充実感は何なのだろう。
(中安正議)